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2016年11月22日

記録と記憶をつなぐモノ 〜ハピログ・ユーザーインタビューvol.3〜

『 熊本地震 震災日誌 』 グループホームせせらぎの記録

2016年4月14日午後9時26分、熊本県熊本地方を震央とするマグニチュード6.5の地震(前震)が発生し、熊本県益城町で震度7を観測しました。その28時間後の4月16日午前1時25分には、同じく熊本県熊本地方を震央とするマグニチュード7.3の地震(本震)が発生し、熊本県西原町と益城町で震度7を観測しました。人的な被害、家屋や工場、農地などの物的な被害は大きく、お住まいになられている人々にとって本当に大変な災害になりました。
 高橋恵子さんは、有限会社せせらぎの代表として、熊本県上益城郡でグループホームやデイサービス事業を運営されています。熊本地震の体験を通じて得られた、SNSを使った情報受発信の有効性や、記録に残すことの意義・重要性について語っていただきました。

中林: 熊本地震では大きな被害となりました。高橋さんは4月14日の前震の際には台湾出張中で不在にされており、翌15日に熊本に戻られています。本震が来たのは、その直後の16日未明でしたね。

高橋さん: 本震が来た時、本当にこのまま建物が潰れて入居者の皆さんと一緒に死んでしまうんじゃないかと思いました。実際に家が全壊したスタッフもいますし。ただ不幸中の幸いですが、スタッフ、利用者ともにけが人は数名にとどまりなんとかその場はしのぎました。

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中林: しかしそこからが大変でした。

高橋さん: せせらぎは中小規模のグループホームを運営していますが、スタッフは私を含めて10名です。本震以降は全員で避難所となった甲佐町白旗ふれあいセンターに移り、スタッフは一泊二日体制で常に3名態勢で勤務してもらいました。私自身も10日間連続勤務だったし、何より慣れない避難所生活と繰り返し起こる大きな余震で、そこにいた全員が強いストレスの中に置かれていたと思います。

中林: 大きな災害が起きると情報が錯綜して何が正しい情報か分からなかったり、即座に伝わらなかったりということをよく聞きます。当初現場ではいろいろな事態が発生したと思いますが、「情報」という観点から当時の状況はいかがでしたか。

高橋さん: とっさに、「これはしっかり記録に残しておかないといけない」と感じました。すべての状況を写真に残していこうと決めて、スマートフォンで撮り続けました。電気ガス水道などのインフラは止まったけど、避難所には発電機が一台ありかろうじて充電ができたので助かりました。

中林: 情報を記録するという点では、やはりスマートフォンが一番手早かった。

高橋さん: 非常時に動き回りながら、暗い場所でも記録を取り続けるのはメモ帳でもパソコンでもなく、やはりスマートフォンが一番よかったですねぇ。写真を撮るだけでなく、メモを書いたりしなければならなかったですから。あとで聞いた話ですが、私がスマートフォンで写真を撮り回り、文字を打っている姿を見て、こんな大変な時期に代表は何をやっているんだろうとスタッフは疑問の目で見ていたみたい(笑)。

それと、避難所からの情報の受発信という点でもスマートフォンがあって本当に助かりました。地震直後の混乱で、救援物資の配給がなかなか来ませんでした。何も食べるものがなく、真剣にこのまま飢え死にするんじゃないかと思ったくらい。そこでFacebookを使って、いまどこで何が最も必要で物資であるのか情報を発信しました。その投稿を見た人たちから救援の手を差し伸べてもらいました。

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中林: 東日本大震災以降、SNSが情報のやり取りに大きな役割を果たすということがよく取り上げられます。

高橋さん: インフラは止まり電話も通じにくかったです。でもSNSはずっとつながっていました。TwitterでもLineでもよかったのですが、入居者の家族の皆さんや全国のグループホーム関係者と情報共有する必要があったので、どこの誰と会話しているのか判別しやすいFacebookにしました。現場の状況を写真に撮り、文章を入れてアップすることで、多くの方がリアルタイムに状況を理解してくれたと思います。よく言われるように、1日経つごとに必要な物資は変わっていきます。最初は水。そしてすぐに食べられるおにぎりやパン、衛生用品などです。でも1週間経ってくると新鮮な野菜などどうしても欲しくなってくる。その状況を正直に、なるべく正確に書いて発信することで、スタッフや入居者の方々の身体と精神の健康を保ちたいと考えていました。

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でも本当に難しい状況でした。せせらぎのことを心配してくれていた人たちから、日中だけでなく夜中にも安否確認の電話がひっきりなしにかかってきました。電話対応だけで時間がなくなってしまうという悪循環になってしまったんです。それもあって、なるべく私たちの状況を心配されている外部の人たちにできるだけ詳しくFacebookを通じて発信することにしました。かかってきた電話に「情報はFacebookで公開するからそれを見てほしい」と伝え続けました。

混乱した中でいろんなことを考えてしまって、私もスタッフもみな気持ちが落ち込んでいたと思います。身体も疲れ切っていましたが、でも、Facebookに記録を残していくという作業は続けなきゃいけないと思っていました。この状況をとにかく知らせなきゃいけないという使命感みたいなものがあったんですね。投稿するたびに、つながることの大切さを感じていました。

中林: 高橋さんの投稿記事を見ると、他県から福祉関係者の皆さんの支援もたくさんあったようですね。

高橋さん: 苦しい状況の中、投稿記事に対して多くの方が励ましのコメントを返してくれました。個々にやり取りする時間はなかなか取れなかったんですが、そのコメントにどれほど勇気づけられたか。今でも読み返すと涙が出てきます。

グループホームで認知症の方を介護するのは専門知識と経験が必要です。九州各県はもちろんのこと、はるばると新潟県や石川県など遠方からやってきてくれた仲間の支援には感謝の言葉がみつからないほどです。本当にたくさん助けてもらいました。

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いま振り返って考えると、当時の異常な状況のなかで私を含めてスタッフ全員が本当に身も心も疲労の極限にあったと思います。ハピログが届いた時、みなでFacebookの投稿を見かえしながら話していると、誰が来て、何をしてもらったのか、どんな話をしたのかということが、記憶から抜け落ちていることが互い結構たくさんあって、本当にびっくりしました。

中林: 注文履歴によるとハピログにご注文をいただいのは4月28日のことでした。

高橋さん: 震災から2週間経とうとしていたとき、ふと、Facebookに投稿している記事をそのまま印刷製本できるサービスないかと思い、すぐにインターネット検索してハピログにたどりついたんです。利用者の家族やグループホーム関係者、そして行政にも読んでもらいたいと思いすぐに10冊注文しました。

中林: 10冊同時にご注文いただくことはあまりないので、そのときにすぐに高橋さんに連絡を取らせていただき、現場の状況やハピログをご注文いただいた経緯をお聞きしました。電話でしたが、これが高橋さんとの出会いになりました。

高橋さん: 製本して本当によかったと思います。自分たちですら一ヶ月も経っていないのにすでに記憶が抜け落ちてしまっていましたから。私はいま「震災の記憶が風化するのはその人たちの記憶から」と強く感じています。
ハピログフォトブックを見た瞬間、一緒に支えあって乗り越えてきた日々、支援してくれた人たちの顔、時には理不尽な状況への怒り、全国から差し伸べられた暖かい支援の手などが一気に脳裏をめぐりました。Facebookがハピログになってはじめて記憶になったような気がしました。
Facebookがよかった点は、写真と文章を多くの人と共有しやすかったこと、分量をたくさん書けること、実名での双方向のコミュニケーションがとりやすかったことです。そして、これがそのままの形で本になることによって、地震直後に考えた「記録に残す」ということができたし、それが自分たち自身の記憶にもなったんだと思います。

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当社では、Facebookを本にして多くの人びとに読んでもらうことで、グループホームで何が起き、職員はどのように考え行動したのかということを知ってもらいたいという高橋さんの思いに共感し、企業として可能な限り協力したいと考えました。ただ小さなベンチャー企業一社の力では限界があります。すぐにフォトブック事業でパートナーシップを組んでいる富士ゼロックス株式会社マーケティング部杉田部長に相談し、あわせて富士ゼロックス熊本株式会社様、株式会社アクセス様にもご協力をいただくことによって、1,200冊のハピログフォトブックを寄贈することができました。

2016年10月1-2日、札幌で開催された「日本認知症グループホーム大会」には全国から1,000名近い参加者が集まりました。高橋さんは震災時の功労について特別表彰を受けられています。大会参加者の手元にはせせらぎが体験した震災の生々しい記録が一冊の本として渡りました。

「それまでは自分が支援側でした。でもいざ支援を受ける側になってみてあらためて思います。普段から災害に対する備えは必要だし、緊急時に互いに援助しあう仕組みや連絡手段はあらかじめ準備しておかないといけない。」そして、「その準備の重要性を、せせらぎの記録を通じて自分のこととして受け取ってもらえれば」と高橋さんはおっしゃいました。

SNSに投稿した写真やテキストを、日時情報やコメントのやり取りなどとともにそのままの形で本として残す。ハピログによって、人びとの記憶、組織や地域の記録を次代に残すお手伝いをこれからもしっかりやっていこうと、私たち自身が思いを新たにしたインタビューとなりました。

せせらぎの高橋様、そして、ご協賛いただいた富士ゼロックス様、富士ゼロックス熊本様、アクセス様に感謝申し上げたいと思います。ありがとうございました。

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(このインタビューは、2016年6月18日に富士ゼロックス六本木オフィス、同年10月1日に日本認知症グループホーム大会会場と二回に分けて行われたものを再構成しています)

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